「底層水のお話」
1月15日
深層大循環についてご存知の方も多いと思います。海水は塩分が高いほど、また水温が低いほど重く(密度が高く)なります。大西洋の海水は太平洋の海水より塩分が高いです。赤道付近で出来た水蒸気は積雲を生じますが、大西洋で出来た積雲の一部は偏西風に乗ってパナマ地峡を越え、太平洋側で雨を降らせます。一方、太平洋で出来た積雲はアジア大陸の高地に阻まれて雨を降らせ、水は大河となって太平洋に戻ります。海水の塩分は、蒸発量と淡水流入量のバランスで決まるので、大西洋の方が塩分が高くなるというわけです。高い塩分の海水が冷やされると、とても重い水ができます。そういうわけで、グリーンランド沖で冷却された重い水は沈み込んで深層水となり、大西洋を南下し、赤道を越えて南極海に至ります。南極海では海氷が沢山作られます。普通の海水(3.5%ぐらいの塩類を含む)は-1.9℃で凍ります。この時、水に溶けていた塩類は氷の中には入っていけないので、濃縮されて塩濃度の高い海水(ブライン)ができます。ブラインの一部は氷の中に閉じ込められ、多くは海底に沈んで底層水となります。こうして南極海で作られた底層水は、大西洋から来た水と一緒になってインド洋から太平洋に入り北太平洋に至って、緩やかに湧き上がり表層水になると言われています。この表層水は太平洋を南下してインド洋、大西洋の表層の流れとなってグリーランド沖に戻ります。この大きな循環は提唱者の名前を取ってブロッカーのコンベアーベルトと呼ばれており、1周するのにおよそ2000年かかるそうです。この大循環は気候に大きな影響を与えると言われており、気候変動を予測する上で、深層水がどのように作られ、またどの程度の量が作られるのかを明らかにする必要があります。ポリニヤと呼ばれる南極大陸の陸棚上の氷の開いた海域では、海から大気へと大量の熱が放出され、海氷生産が活発です。強い風で海氷が沖に運ばれ、開いた海面では新たな海氷が次々と作られます。ここでは、ブラインの排出とともに超低温の海水が沢山作られて沈み込みます。
海洋大物理チームの今回の目的は、中規模ポリニヤで作られる低温水の量を推定して、それが底層水となっていく過程を明らかにし、また底層水の作られる量や特性の年々変化を明らかにすることです。いやというほどたくさんの海底直上までのCTD観測と、明日やることになっている係留系の設置はそのためのものなのです。今日はCTD観測を繰り返しつつ、係留する機材をデッキに並べて組み立てました。写真左は
組み立て風景。右(写真その2)は念入りに点検する北出隊長。(石丸)

1月15日の写真その2.係留系の点検をする北出隊長。

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