「各層採集のお話1」
写真はIONESS(アイオネス)を投入するところです。ワイヤーでバーが釣られているのが見えます。このバーの間に1枚ずつ、合計8枚のネットが装備されています。(茂木)
------------------------------
1月7日
引き続き、南緯60度で観測です。昨日から今日にかけて、多段開閉式ネット(IONESS)による各層採集を昼夜2回行いました。
... 海洋生物はさまざまな深度に分布しています。植物プランクトンは光合成するために必要な光の届く浅い水深に分布し、それを餌とする食植性の動物プランクトンも同じく浅い層に分布します。一方、肉食性の生物や、表層から沈降してくる有機粒子(たとえば、動物プランクトンの死骸や糞、それらの分解物の集まったもの。大型の粒子はマリンスノーと言われる)を餌とする生物は、さまざまな水深に住んでいますが、やはり種毎に生息深度が異なります。また、動物プランクトンや深海魚のなかには、昼と夜で分布する深度を変える種類があります(日周鉛直移動)。このような行動は、視覚により餌を探すような生物から逃れるために発達したと言われていて、明るいときには深い層に潜み、暗くなると浅い層に上がってくるのが普通ですが、その反対の行動をとる種も知られています。生活史の中で生息深度を変える種もたくさん見られます(季節的鉛直移動あるいは発生段階に伴う鉛直移動)。生物多様性や、種の生存戦略、物質の鉛直輸送などを明にする上で、どの深さにどんな生物(幼生から親まで)が分布しているのか、それらの間の食物連鎖はどうなっているかを知ることがとても重要です。
ということで、前置きが長くなりましたがIONESSのお話です。写真のように、左右2本のレールの間を滑って移動する8本のバーとレールの一番下に固定されたバーがあります。ネットは9枚で、1番下の網の下側は固定されたバーに上側は下から2本目のバーに取り付けてあります。2番目の網の下側は下から2本目のバー(1番下の網の上側と同じ)に、上側が3本目のバーに取り付けてあります。同じようにして、10本の
バーの間に9枚の網を張り、一番下のバー以外の移動式のバーをワイヤーでつって一番上まで持ち上げて切り離し装置に固定しておきます。つまり、一番下の網だけが開いている状態です。この状態でIONESSを水に入れ、船で曳きながらアーマードケーブルを繰り出します。一番深い層に届いたら、信号を送って下から2番目のバーをつっているワイヤーを切り離します。すると、バーはレールを滑って落ちるので、1番目
のネットが閉じて2番目のネットが開きます。ワイヤーを順番に切り離してレールを一つずつ落とすことによって、8枚の網のそれぞれに異なる層の生物が採集されるという寸法です。
南緯60度の測点では、昼夜のIONESSを1セットずつ(2000mから400mまでの8層と400mから表面までの8層の各1回)の計4回行いました。今日はとてもくどい話になりましたが、そのくらい大事な採集だということでご容赦ください。(石丸)
1月7日の写真その2 IONESSが上がってきたところです。すべてのバーが切り離されてネットが閉じた状態です。開閉がうまくいったようです。


スポンサーサイト